pult ～concerto～ 游戏

first pult

８月の初め、人もまばらな電車内に俺はいた。
電車の車内からふと窓の外を見た。
あたりは一面の田んぼに覆われていて稲が所狭しと青々と茂っていた。

何年ぶりだろうか、あの街へ帰るのは。
東京の大学へ通う為に上京してから三年が経つ。
今まで何度も帰るチャンスはあったが何故かためらっていた。
今回もどうして帰ろうと思ったのか自分でもよく分からない。
とにかく今私は生まれ育った故郷へ夏休みの間帰省する為に向かっている。
もう実家には連絡を済ませてある。
「三年ぶりか・・・・」
誰に言うでもなく俺はつぶやいてみた。

三年間、短いようで結構長い。
もうあの街は変わってしまっているのだろうか。
あの公園は、あのコンビニはまだ残っているのだろうか。
大学進学やら、就職やらで散り散りになってしまった高校の仲間達は今どうしているのだろうか。
そんなことを考えているとふと、ある人物の顔が頭に浮かんでくる。
「玲菜・・・。」
頭から離れないその人の名前を口にした。
それは今一番逢いたい人物の顔だった。
彼女は今どうしているのだろうか・・・。

俺はそんなことを考えながら少しずつ、眠りについていった。
頭の中があの頃へ帰っていく・・・。
二人が出逢ったあの頃へ。

second pult

８月の初め、地元の駅のホームに私はいた。
夏休みに入ったせいか、昼下がりのホームには私のほかに人はほとんどいない。
私は目的の電車が走ってくる方向をずっと見続けていた。

何年ぶりだろうか、彼と逢うのは。
彼が東京の大学へ通う為上京しても、私は両親の店を手伝う為にこの地元に残った。
彼がいつか帰ってくる。そんな事を考えながら私はずっと待ち続けた。
「もう三年も経つんだよね・・・・。」
誰に言うでもなく私はつぶやいてみた。

彼のお母さんから彼が夏休みを利用し、帰ってくると聞いていても経ってもいられなくなり。
私は今、ここにいる。
どうやってあやまろう。そんな事を考えながら私は今一番逢いたい人物の顔を頭に思い浮かべる。
いまさら逢ってどうなるのかなんてわからない。ただ一言伝えたい。
人気の無い真夏の昼下がりのホームで、私はあの人が乗る電車を待ち続ける。

あの時もこんな昼下がりだったな・・・。
私の中で記憶がどんどん後退していく。
目を閉じて意識を三年前に戻す。
あの時の教室が鮮明によみがえってくる。
私は思い出に身を任せた・・・。