めんとりさま Faceless Summer 小说

  • 牧瀬十海

    2024-3-1 02:04

    おれの存在はコーヒーに溶けゆく一粒の砂糖、汀に洗われる貝殻の薄蒼い欠片、梅のジュースに靄を落とす氷、その全てだった。 //とろりとした夜火が、花火の芯を舐めていく。 ぱぱ、ぱ、ぱち、と。 やわらかな光で編まれた金色の綿くずが暗闇に泡立ち始め、橙色の夏のかたまりは中芯でその存在感を膨らませてゆく。// 腹が減ったのでドーナツを食べようと口を開き、その穴の向こうに喪失をにっかり笑って吹き飛ばすように、ひょこりとねえさんが見えるようになったとき――おれがどんなに嬉しかったか。