昭和三年、冬ーー。大日本帝国陸軍近衛師団歩兵第一連隊に所属する相馬晄久は、ふとした拍子に思い出すことがあった。幼い頃、別荘番の息子・阿澄と過ごしたあの夏の日々。雨宿りのため二人で身をひそめた荆の薮の中、「俺がおまえを守ってやるよ」と告げたあの時。もう十何年も経ったのに、阿澄とのその約束を果たせなかったことが、抜けない棘のような痛みとなって今も晄久の気持ちを苛んでいたのだった。もう一度阿澄に会いたい、そして守れなかったことを謝りたい。そう思う晄久の前に現れたのは、美しく成長し、新しい軍医として着任した阿澄その人でーー…
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