蜜瓜小说特典
#1 - 2024-8-24 16:01
仓猫
ふたりのオムライス
文化祭の当日。
私、内田優空は頃合いを見計らってひとりで明日風さんの教室を訪れた。
朔くんはきつと真つ先に向かっただろうから、少しだけ時間をずらして。
本番で上手にオムライスが作れたか心配だつたのもあるけど、それ以上に、私もコスプレした明日風さんを見てみたかったのだ。
そうして教室に人ると、応援団でご一緒している奧野先輩が声をかけてくれた。
「内田さん、いらっしゃい」
「こんにちは奧野先輩、えっと、その……」
あたりを見回すと、かわいい猫耳メイドのコスプレをした三年生の先輩たちが忙しそうに歩き回っている。
私の視線が彷徨っていることに気づいたのだろう。
奥野先輩がなぜだか少しだけ切なそうに笑った。
「ああ、明日風? いまは裏方に回ってるよ」
「そうなんですか?」
「千歳くんが帰ったら、脇目も振らずにぴゅーっとね」
なるほど、と私はその様子を思い浮かベながらくすつと苦笑する。
みなさんの衣装を見ているとスカートもかなり短いし露出も多めだ。
きっと、朔くん以外の男の人にはあまり見られたくなかつたんだろう。
ちょっとだけ残念だけど、気持ちはわかる。
そんなことを考えていたら、奥野先輩が言った。
「待ってて、内田さんが来たって伝えてくる」
「いえ、そんな」
慌てて手を振る私を横目に、さらっと背中を向けながら続ける。
「大丈夫、内田さんなら明日風も喜ぶよ」
そうしてしばらく教室の装飾や応援団の先輩方の猫耳メイド姿に見人っていたら、後ろからつんと遠慮がちに背中をつつかれた。
「ご案にゃいします、お嬢様」
振り返ると、猫耳メイド姿の明日風さんが頬を赤らめながら恥ずかしそうに首を傾けている。
「——っっっ」
同性だというのに、私は思わず変な声を出しそうになってしまい、慌てて両手で口を押さえた。
普段はどこか中性的で大人びたあの明日風さんが、露出の多い猫耳メイドでにゃん言葉……。
これは朔くんじやなくても、ってさすがにそれは失礼かもしれないけど、とにかく目のやり場に困ってしまう。
「とっ、とてもお似合いです」
私が言うと、明日風さんは猫の手を顔のあたりに掲げて言った。
「こちらヘどうぞにゃん」
っ、か、かわいい。
先に朔くんの接客をして慣れたのか、照れくさそうなわりには口調や立ち居振る舞いがこなれていた。
テーブルヘ向かう明日風さんのスカートから伸びた尻尾がぴこぴこ揺れている。
案内されるまま席に着くと、私はメニューを見ずに言った。
「明日風さん特製のにゃんにゃんオムライスをひとつ」
「優空さん直伝のにゃんにゃんオムライスをひとつですにゃん」
まったく、明日風さんは。
特徵的なレシピってわけでもないし、気にしなくてもいいのに。
でも、あの様子だと上手に作れたみたい。
そうしてしばらく待っていると、オムライスを手にした明日風さんが戻ってきた。
やっばり、焦げ目ひとつないつるんときれいな黄色。
私はその上にケチャップで描かれた模様みたいなものを見ながら言った。
「えと、これは……?」
明日風さんがもじもじと猫耳を揺らしながら答える。
「えと、一応、優空さんの似顔絵の、つもりにゃん……」
ぷっと、その言葉に我慢しきれず吹き出してしまう。
「明日風さんて、絵心はあんまりないんですね」
「ひどいにゃつ!?」
朔くんに初めて振る舞った私の手料理、あの夜を見守ってくれたお月さま、だけど——。
私はこほんと咳払いをしてからふたりで猫の手を顔の横に掲げ、
「「美味しくにゃーれ、美味しくにゃーれ♡」」
大切なものを渡したのがこの人でよかったと、なぜだかそんなふうに思えた。
いつかたとえば東京の街で、そこから先は、まだ考えないようにして。
文化祭の当日。
私、内田優空は頃合いを見計らってひとりで明日風さんの教室を訪れた。
朔くんはきつと真つ先に向かっただろうから、少しだけ時間をずらして。
本番で上手にオムライスが作れたか心配だつたのもあるけど、それ以上に、私もコスプレした明日風さんを見てみたかったのだ。
そうして教室に人ると、応援団でご一緒している奧野先輩が声をかけてくれた。
「内田さん、いらっしゃい」
「こんにちは奧野先輩、えっと、その……」
あたりを見回すと、かわいい猫耳メイドのコスプレをした三年生の先輩たちが忙しそうに歩き回っている。
私の視線が彷徨っていることに気づいたのだろう。
奥野先輩がなぜだか少しだけ切なそうに笑った。
「ああ、明日風? いまは裏方に回ってるよ」
「そうなんですか?」
「千歳くんが帰ったら、脇目も振らずにぴゅーっとね」
なるほど、と私はその様子を思い浮かベながらくすつと苦笑する。
みなさんの衣装を見ているとスカートもかなり短いし露出も多めだ。
きっと、朔くん以外の男の人にはあまり見られたくなかつたんだろう。
ちょっとだけ残念だけど、気持ちはわかる。
そんなことを考えていたら、奥野先輩が言った。
「待ってて、内田さんが来たって伝えてくる」
「いえ、そんな」
慌てて手を振る私を横目に、さらっと背中を向けながら続ける。
「大丈夫、内田さんなら明日風も喜ぶよ」
そうしてしばらく教室の装飾や応援団の先輩方の猫耳メイド姿に見人っていたら、後ろからつんと遠慮がちに背中をつつかれた。
「ご案にゃいします、お嬢様」
振り返ると、猫耳メイド姿の明日風さんが頬を赤らめながら恥ずかしそうに首を傾けている。
「——っっっ」
同性だというのに、私は思わず変な声を出しそうになってしまい、慌てて両手で口を押さえた。
普段はどこか中性的で大人びたあの明日風さんが、露出の多い猫耳メイドでにゃん言葉……。
これは朔くんじやなくても、ってさすがにそれは失礼かもしれないけど、とにかく目のやり場に困ってしまう。
「とっ、とてもお似合いです」
私が言うと、明日風さんは猫の手を顔のあたりに掲げて言った。
「こちらヘどうぞにゃん」
っ、か、かわいい。
先に朔くんの接客をして慣れたのか、照れくさそうなわりには口調や立ち居振る舞いがこなれていた。
テーブルヘ向かう明日風さんのスカートから伸びた尻尾がぴこぴこ揺れている。
案内されるまま席に着くと、私はメニューを見ずに言った。
「明日風さん特製のにゃんにゃんオムライスをひとつ」
「優空さん直伝のにゃんにゃんオムライスをひとつですにゃん」
まったく、明日風さんは。
特徵的なレシピってわけでもないし、気にしなくてもいいのに。
でも、あの様子だと上手に作れたみたい。
そうしてしばらく待っていると、オムライスを手にした明日風さんが戻ってきた。
やっばり、焦げ目ひとつないつるんときれいな黄色。
私はその上にケチャップで描かれた模様みたいなものを見ながら言った。
「えと、これは……?」
明日風さんがもじもじと猫耳を揺らしながら答える。
「えと、一応、優空さんの似顔絵の、つもりにゃん……」
ぷっと、その言葉に我慢しきれず吹き出してしまう。
「明日風さんて、絵心はあんまりないんですね」
「ひどいにゃつ!?」
朔くんに初めて振る舞った私の手料理、あの夜を見守ってくれたお月さま、だけど——。
私はこほんと咳払いをしてからふたりで猫の手を顔の横に掲げ、
「「美味しくにゃーれ、美味しくにゃーれ♡」」
大切なものを渡したのがこの人でよかったと、なぜだかそんなふうに思えた。
いつかたとえば東京の街で、そこから先は、まだ考えないようにして。
#2 - 2024-8-24 16:03
仓猫