そこは、小さな島国。
その世界は三つに分かれていた。
そして、そこには三種類の種族が共存していた。
人間と精霊族と魔族が、それぞれに住んでいた。
人間は、草原に。
精霊族は、森に。
魔族は、荒地に。
種族間の仲もよく、全ては平和に過ごしていた。
笑顔があふれ、笑い声は音楽のように響き渡る。
みんなが笑っていられる、そんな平和な世界。
そんな場所だったのに、今は、見る影もない。
大地の枯渇にともなって起こる、種族間の諍(いさか)い。
食料の減少によって起こる飢えと、それにより明確になる権力の差。
互いが互いを疑い、監視をしあい、余裕(ゆとり)のない世界ができあがる。
そこにあるのは、疑心暗鬼。
世界は、張り詰められた糸のようだった。
そして、張り詰めた糸は、その緊張に耐え切れずに切れることしかできなかった。
きっかけは、誤解から。
ある魔族の国王が、ある人間の国に攻め込んできたという誤った情報が、大陸中を駆け巡る。
事実は、魔族の王が少なくなってきた食糧の交渉をしに、人間の国へ出かけただけのことなのに。
そして、その情報が全ての緊張の糸を簡単に切り裂いた。
こうして、大戦は始まった。
悲しき血の海を、大陸に撒き散らすかのように。
最初は一滴だった血が各地に広がり、そして世界に広がった。
誰が望んだわけでもない戦い。
ただ、そうしなければ、生きられなかった。
そうしなければ、誰かに殺されていた。
誰が何をしようとも、無関係に月日は流れる。
戦い、血を流し、傷つき、倒れ、悲しみ、憎しみ、いがみあい、怒り、また戦う。
終わることのない連鎖。
それこそ、無機質な鎖をまわすように、同じ行為は続けられる。
いつしか、相手の命を奪うことが目的になり、自分以外の種族を認めようとしなくなった。
終わることがないと思われた大戦。
それも、人間と魔族の王の必死の呼びかけにより、五年前に終結した。
平和というには程遠い、そんな不安定な状態で。
これは、その大戦を最前線で生きてきた、人間の戦士のお話。
ティスト・レイアの物語である。