2024-2-24 01:11 /
この作品にハートウォーミングだのハートフルだのましてや感動だの泣けるだの安っぽいアオリを付けたくない。
初めて読んだ時は衝撃を受けた。
本作の舞台はいわゆる貧困層がその日暮らしをするドヤ町。人でなしとろくでなしと甲斐性なしと意気地なし、あらゆるないない尽くしが集まったド底辺の町の話である。
そんな明日も希望もない町で逞しくもふてぶてしく生きる人々の日常が綴られていくのだが、時に醜悪な本性を剥きだし、時に崇高な強さと優しさ、信じられない気丈さを発揮するキャラクターの姿がガツンとくる。
印象的なキャラクターやエピソードには事欠かないが、自分的にはキャバクラの人のいいボーイの話がしみた。

「弱いものはもっと弱いものに噛みつく」

優しくて気が弱く、働いてる風俗店の嬢にまで舐められていじめられる若者をさして上記の言葉が出てくるのだが……なんて簡潔に残酷な、それでいて当たり前の現実なんだ。
人間は弱い。だからもっと弱いものに噛み付く。世の中は弱者が理不尽を一身に被るようにできている。薬物や売春、貧困が蔓延した町では上っ面を剥がされた分そのシビアな風当たりを痛感できる。その過酷さを、らくがきのようなユルい絵柄が絶妙に和らげていい味を出している。
登場人物のセリフは決して難しくない、小学生でもわかるようなシンプルなものが多い。が、ずっしりくる。
本作は単純な悪者や悪人を作らない。
キレるとなにをしでかすかわからない売人や子供を次々捨てる老婆など私達が生きる社会の倫理観、または道徳通念では「悪人」とされる者がたくさん出てくるが、そんな彼らを一面的に決め付け、上から目線のモラルで裁かない。
キレたら怖い売人は姉想いで二太に優しく、老婆の葬式には捨てられた子供たちが集まる。世の中絶対悪などそうそう存在しない。大半の場合、環境が人間を作る。彼らがそうした人生を歩んだ背景まで読者に想像を及ばせる、余白の使い方が素晴らしい。
この物語はハッピーエンドではない。みんな仲良く大団円、という終わり方を期待する読者は裏切られるだろうが、私はフィクションに誠実であろうとした作者の姿勢に敬意を表したい。
だって、フィクションならいくらでもきれいごとが描ける。取って付けたようなハッピーエンドにしようと思えばできるのだ。
西原理恵子はあえてそれをしない。
救われない現実を救われないまま生きる人々をそのまま描いて、彼らへの愛しさで胸をいっぱいにしてくれた。
人生残る一冊になった。
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