#1 - 2019-5-21 22:36
Lain__ever (袖振り合うも多生の縁)
(bgm46)话多的堀实在是太可爱啦!
#2 - 2019-5-21 22:38
(袖振り合うも多生の縁)
堀はほんのわずかな時間、まっすぐに僕をみつめた。
「私は、七草くんの理想になりたい。噓でも、偽物でも、真辺さんよりも強い理想に」
堀の言葉が重たくて、魔法にかかったみたいに声が出ない。
──僕の、いちばんのわがままは。
堀と真辺を、比べたくはないということなんだ。
性質がまったく違うふたりへの感情を、混ぜ合わせたくはない。別々の価値観で、それぞれをそれぞれのまま大切に思っていたい。これは許されないことなのだろうか。順位をつける必要があるのだろうか。一方を選び、一方を捨てた先にしか、成長というものはないのだろうか。
「ごめんなさい」
堀が視線を落とす。
「こんな話は、迷惑だって知ってるよ。でも、避けて通りたくはない」
彼女は顔を上げなかった。
弱々しくうつむいたままだった。
なのに、言葉だけは強い。真辺の視線みたいに強い。
まっすぐで、綺麗に聞こえる。
「私はわがままな魔女になるよ。わがままに魔法を使う魔女になる。わがままに、貴方を好きな魔女になる。私が貴方にとっての呪いになるとしても、それでも」
目の逸らしようもなく、彼女の言葉は告白だった。
僕になにかを選ばせて、僕になにかを捨てさせる、堀がもっとも慎重に扱う種類の言葉だった。
だから彼女は、苦しげに海面を睨んでいる。僕は応える。
「手紙を書くよ。誤解なく、返事が伝わるように」
でも、どうしたところで誤解は生まれるのだ。
どれだけ丁寧に言葉を選んでも、相手が堀だったとしても。
「うん。待ってる」
#3 - 2019-5-21 22:39
(袖振り合うも多生の縁)
「空を飛びたいな。久しぶりに」
綺麗なものをみたかった。それに、四月の昼下がりのよく晴れた空を飛ぶのは心地が良さそうだ。
もう一度、堀が頷いて。
「行きます」
彼女の囁くような声が聞こえたとたん、浮遊感を覚えた。
それは落下に似ていた。深い穴に身を投げて落ちていくようだった。実のところ、その感覚はまったく正しかったのかもしれない。僕たちは空に向かって落下しているのかもしれない。
足の下に郵便局の赤い屋根がみえる。真辺がぱたぱたと手足を振った。宙を泳げるか試してみたのだろうか。
三〇メートルほどだろうか、浮かび上がって少し怖いなと感じたとき、右手に温かなものが触れる。堀が僕の手を取っている。
「すぐに、着きます」
彼女が僕に向かって敬語を使ったから、妙に懐かしく感じた。
僕たちは海の上を飛ぶ。
寒くはなかった。
#4 - 2019-5-21 22:43
(袖振り合うも多生の縁)
堀はマグカップをテーブルに置いて、木製の椅子から立ち上がった。
ゆっくりとこちらに向かって歩きながら、口を開く。
「つまり私は、七草くんを、諦めさせればいいのかな。貴方の、理想を」
彼女の顔は笑っていたが、それはなんだか悲しそうにみえた。涙をこらえている表情にみえた。だからもう、すでに僕は、僕の理想に反しているのだ。
本当は、堀を少しも悲しませたくはなかった。彼女の不幸になりたくなかった。でもどうしようもなくなにかを選んで、僕はあの手紙を書いた。
「僕は意外に、頑固らしいよ」
「知ってるよ。でも、優しい」
堀が僕の目の前に立つ。すぐ近く、つま先とつま先が触れあうくらいの距離。
彼女は泣き顔のように笑ったままで、僕の瞳を覗き込む。
「やっぱりあの手紙には、噓があるんだと思う」
「そうかな。できるだけ、素直に書いたつもりだけど」
「うん。でも──」
堀が右手を、僕の頰に伸ばす。それを振り払うことなんかできない。
「やっぱり私は、貴方の呪いで。貴方の理想に反していて。でも、ごめんなさい。私はわがままな魔女になるよ」
目の前の瞳は潤んでいて、彼女が目を閉じると、そこから一筋の涙がこぼれた。
「わがままなのは、僕の方だ」
かすかにココアの香りがして、まどろんだ脳で、僕はようやく理解する。
魔法のように。言葉のように。この子がもっとも怖れているもののように、震える唇が触れる。
──ああ。堀は。
僕の頭の中を覗いたのだ。
僕が真辺に対してしようとしていることを、理解したのだ。
ほんの短いキスのあとで、堀がもう一度、ささやく。
「ごめんなさい」
そして堀の姿が消える。僕の目の前から綺麗に消える。
たしかに、逃れようもなく。
彼女の涙も声も唇も、僕を縛る、呪いだった。
#4-1 - 2019-12-17 23:11
kinoko
回想起来,要不是自己粗略翻书时被剧透的,要么就是在这里被剧透的
#5 - 2019-5-21 22:49
(袖振り合うも多生の縁)
僕はまっすぐに堀と向き合った。
ずっと気になっていた、でも尋ねる必要はないだろうと思っていたことを、尋ねる。
「君にとって、僕はだれなの?」
堀は困った風に首を傾げる。
「だれ?」
「小学生のころに君に出会って、ずっとこの島で過ごした僕がいる。それとは別に、真辺と一緒にいた僕もいる。ふたりの僕が混じり合っている」
「七草くんは、七草くんだよ」
「でもやっぱり、考え方が違うふたりがいる」
本当に大切なものも、堀に向ける感情さえも違う。
堀は長いあいだ、考え込んでいた。以前の彼女みたいだった。ひとつだけ違ったのは、そのあいだに彼女が、様々な表情を浮かべたことだ。少しだけ笑ってみたり、気難しげに口元に力を入れたり、瞳を潤ませたり。感情が素直に表に出ていた。
僕はその表情をじっとみつめていた。きっと彼女の頭の中で、生れては消えていく、いくつもの言葉を想像した。具体的な意味を考えていたわけではない。ただ、クリスマスのイルミネーションみたいに、灯っては消えてまた灯る光のような言葉の景色を想像した。
やがて堀が口を開く。
「七草くんは、やっぱり同じだよ」
「そうかな」
「少しは違うかもしれないけど。たぶん、昨日の貴方と今夜の貴方が違うくらいのものだよ」
「もうちょっと違う気もするな」
「違っても、同じで。なんだろう」
堀は軽くうつむいて、ほほ笑む。
「私の言葉がだれかに届きますように」
と、彼女は言った。澄んだ声で。
「ずっと、私はそう言ってたんだよ。なんにも喋らないくせに、馬鹿みたいだけど、本気で。声にしていない言葉の返事を待っていたんだよ」
「別に、馬鹿みたいじゃない。誰だってそうだろ」
誰にだって。
声にならない、できない、するべきじゃない。形もわからないから辞書を引いてもみつからない言葉が、誰の胸の中にもあって、その返事を待ち続けているものだろ。
「七草くんは、それに返事をくれる人だよ。どの七草くんも、変わらず」
そうだろうか。
「僕はそんなに賢くも、優しくもないと思うけど」
声にならない言葉を聞けるほど、良い耳は持っていない。それをみつけられるほど、よい目だって僕にはない。もしも、なにかを察することができたとして、それに答えられるほど優しくない。
なのに堀は首を振る。
「七草くんは、優しいよ。でもたぶん、優しさじゃなくて。もっと純粋なものだよ」
「優しいのは、純粋じゃないの?」
「ううん。でも、もっと。相手のためじゃなくて──」
堀はまた口をつぐむ。
一所懸命に言葉を探している。
僕はじっと、彼女の言葉を待つ。この時間は嫌いじゃない。
堀は言った。
「相手のための優しさじゃなくて、自分に誠実だから、七草くんは声にならない言葉まで聴こうとするんだと思う。私には、それが、とても純粋なものにみえる」
なんだか罪悪感があった。過剰に評価されているようで。
僕はそれほど誠実でも、純粋でもない。そのとき、そのときを、なんとかはぐらかして過ごしてきた。
今だってそうだ。
#6 - 2019-5-21 22:54
(袖振り合うも多生の縁)
堀が目の前に立つ。
「貴方を連れ戻したのは、私だよ」
彼女は複雑な瞳で僕をみつめている。
「七草くんが戻ってくるのを、待てないわけじゃなかった。私はたぶん、いつまでだって信じられた。でも、そうはしたくなかった。私の手で貴方を取り戻したかった」
ひと言ひと言で、勇気を振り絞るように、苦しげに彼女は喋る。
「ごめんなさい。でも──」
でも。なんて、優しく響く二音。
それだけを残して、彼女は長い間、口を閉ざす。
僕はじっと堀の言葉を待つ。彼女は泣き笑いみたいにほほ笑んで、きっと、この島の優しい魔女として続きを話す。
「失くしものは、みつかりましたか?」
その言葉に、不意を打たれた。
でも、言われてみれば、うん。
「みつかったよ」
僕は真辺と、ふたりきりの無意味な光になることに、憧れて、憧れて。本当に魅力的で、でも、そんなの僕の失くしものじゃなかった。
真辺の隣から引き離されて、ようやく正解がわかった。
ずっと探していたものを、堀が教えてくれたのだ。本当は、僕自身がみつけなければならないものだ。こんな風に他人任せに手に入れてよいものではない。だから小さな後悔はある。でも、堀がそれを差し出してくれたことは、嬉しかった。
#7 - 2019-5-21 22:56
(袖振り合うも多生の縁)
「七草くん」
顔を上げると、そこに堀が立っている。
「真辺さんと、話しをしてきたよ」
「そう。どうだった?」
「知っている通りの、真辺さんだった」
「それはなによりだ」
真辺由宇は、いつまでだって苦しみ続けるのだろう。それが彼女の悲劇だとは、僕には思えない。でも彼女と同じ苦しみを、僕も感じていられないのは、僕にとっての悲劇ではある。
「起こす?」
と堀が言う。
「僕がやるよ。夜が明けるころに」
真辺が勝手に苦しむことの責任まで負うつもりはない。
でも、彼女をその苦しみから、ひと時だけでも解放する責任なら僕が負いたい。堀にだって委ねたくない。
「代わりにひとつ、お願いをしてもいいかな」
「うん。なに?」
「君が、もう一度、本物の魔女になったら」
「なれるかな?」
「なれるよ」
「七草くんも手伝ってくれる?」
「もちろん。だから」
まだもう少し、夜は明けない。
「たまにでいいんだ。真辺のために、魔法を使って欲しい」
今みたいに。彼女自身が望んだ苦しみの中に、彼女が身を置く許可が欲しい。
「いや。悲しいから」
と堀は言う。
「それは困った」
と僕は笑う。
堀の方も、ほほ笑む。素直に、大胆に。
「でも、また真辺さんと話しをするよ。もう少し、喋るのが上手くなったころに」
「ありがとう」
堀は僕に背を向けて、三段くらい下に座り込んで、大きく息を吐き出した。
「今夜は、たくさん喋ったよ」
「うん。お疲れさま」
「もうひとつだけ、喋ってもいい?」
「もちろん。好きなだけ」
「ごめんなさい」
彼女は前を向いたままで、僕には顔をみせなかった。
僕は尋ねる。
「真辺の魔法から、連れ戻したこと?」
「それから、七草くんの考えを勝手にのぞいたのも」
堀の選択は、自尊心みたいなものの否定だったのかもしれない。たしかに彼女は、身勝手に僕の個人的な場所に踏み込み、一部を決定した。彼女がいちばん大切にしていたものを、わずかに手放して、そうした。
「君は悪くない。僕が間違えていただけだ」
「でも」
と、堀が言った。
僕は彼女の言葉の続きを待たなかった。
「なにもかもを、たったひとつのルールで決めてしまわなくたっていいだろ。君がしたことはみんな、僕が尊敬している、優しい君の通りだった」
例外的な行動だって、誠実に僕を支えてくれた。
堀はかすれた声でささやく。
「うん。ありがとう」
#8 - 2019-5-22 12:26
(整衣正色 往南三拜 焚琴煮鹤 挂印封金 ... ...)
捕捉?